ぼく、まっさん

オッス!まっさんだぞ!

この世は、運と、才能だ

 

大観衆の前で、あの大スターがお礼をする。

 

ありがとうございましたーー!!

 

ステージから去っていくその姿に、惜しみ無い歓声が送られる。悲鳴のような声はそのうちアンコールへと変わり、待ってましたと言わんばかりに、アンコールが始まる。

 

その姿に、どれだけの憧れと、どれだけの嫉妬を重ねただろう。

 

テレビの画面は、彼らと何の縁もない僕に「知らなくてもよかった世界」を見せつける。

 

 

人気者

 

 

当時、転校したばかりでクラスに馴染めなかった僕には、強烈すぎる刺激だった。

 

そんな姿になりたくて、でもなれなくて。そんな劣等感を抱えて、何度夜を越えただろう。

 

君はもう、100回も、200回も、そのステージに出ただろう?

 

一回位、変わってくれよ。

 

会うことがあれば、そう伝えただろう。

 

12やそこらで芸能事務所に入り、一般人が高校を卒業する頃にはデビュー。そんな生活、望んで手に入るものじゃない。

 

あーあ。俺の人生、外れかなあ。

 

そう思いながら生きた。25年。

 

人に好かれたくて、コミュ力だけは鍛えた。25年の努力の賜物として、コミュ力だけはある人間に育った。

 

ある時、こう言われた。

 

まっさんのそのコミュ力、すっごい羨ましいです。どうすればそんな喋れるようになるのですか?

 

驚いた。

 

コミュ力は、全員に備わった当たり前の物だと、思っていたから。

 

自分にはないと思っていた才能は、こうして見つかった。無い物ねだりをするがあまり、自分の才能に目を向けていなかったのだ。

 

勿論、才能と運はあると思う。誰もが羨む大スターなんて、運と才能がないとなれやしない。

 

でも、運も才能もソコにだけある訳じゃない。誰にでも、ちっぽけな運と、ちっぽけな才能が転がってる。

 

だからこの短い一生を精一杯生きるには、自分に与えられた才能を、上手く使うしかないのではないか。

 

少なくとも、俺はそう思ってる。