ぼく、まっさん

オッス!まっさんだぞ!

あなたは、五年後も生きていますか?

なあ、明日死ぬとしたら、何がしたい?

翡翠さんは、さっきまでと変わらぬ陽気さでそう言った。

3年前にお世話になった部活の先輩と、一杯300円の安い生ビールを片手に、昔話に花を咲かせる。

何すか、そんな突拍子もない話。
そう返した。だってこの、平穏な、日常で。
どうやって僕達は死ねるというのだ。

いやいやだから、もし明日死ぬとしたらだよ。何がやりたい?

翡翠さん。病んでるんですか?悩み事があるなら相談乗りますよ?

え、そっち?(笑)あーそーとるかー。いや違うねん。そうじゃなくて。んーーーー。

何て言えばいいんやろなー。そう言いながら楽しそうな翡翠さんを見て、とりあえず自殺はしなさそうなので、安心した。

例えばよ。今お前は就職活動中で、どこかに就職する。そして何となく結婚して、何となく出世して、子供達の成長を見ながら、少しずつ年老いていく。そんな未来を考えてるんじゃないか?

まあ、そうっすね。そんな感じに年取れればなあとは。

その人生って、どこにあるんだ?

??
どゆことすか?

だって、希望の就職先に就けるとも限らない。彼女ができないかも。結婚は本当にできるの?できたとして、子供は?些細なケンカが原因で離婚するかもしれない。そもそも明日、交通事故で死ぬかもしれない。お前の未来を保証してくれる物なんて、なんにもない。

なのに何でお前の口から、まるで確定したかのように未来が出てきたんだ?

?????
だって、それが普通だから?

その普通を、俺達が手に入れられる可能性って、どれ位あるんだ?

え、。?

何を言っているのか分かるのに、時間がかかった。
そもそも自分の未来を、就職して年老いていく以外に考えたことがない。その未来が、手に入らないかも。なんて考えたこともなかった。

おれはさ、分からない未来のために今を我慢するなら。我慢せず、自分の未来を作ってみようと思うんだ。
だから就職もしなかったし、自分の好きなことをトコトンやってる。今やりたいことを精一杯やってれば、将来後悔なんて、しないもんな。

なあ、もし明日死ぬとしたら、何がやりたい?

問い詰めるでもなく、責めるでもなく。翡翠さんの目は、おもちゃを目の前にした子供のようにワクワクしていた。考え込む僕なんかお構いなしに、目を輝かせる。

明日死ぬなら、何がやりたいか。

人生のテーマとも言える、途方もないテーマを考えながら帰路につく。
帰り道、昭和の臭いがするスナックで、ガハガハと酒を飲むおじさんの声が聞こえてくる。
何故かその声が、とても遠い世界の出来事のように、感じた。