ぼく、まっさん

オッス!まっさんだぞ!

自分を優秀だと思っている奴は、リーダーなんて辞めちまえ。

 

今忙しいから。あとで教えるね

 

150cmもなく、ハキハキと喋る見た目30後半の加藤さんは、そう言って自分の仕事に戻った。携帯電話のバイトを始めて三日目。何も教わることなく立ち尽くして、もうすぐ24時間だ。

 

勤務先は市内の大手家電店。所属する部署の人数は20人を超え、1日6~7人がシフトに入っている。

忙しく動くリーダー。お客さんに対応する先輩達。そんな先輩達の隣で、僕はトコトン暇だった。まともな研修など一度もないまま、三日が過ぎた。

 

その間、僕の仕事は持ち場のスマートフォンを磨くこと。5分あれば完了する仕事を、1440分やっていた。スマホなんて、とうの昔にピッカピカだ。

 

僕の時給は1700円で、毎日13600円が僕に入る。研修もなく、ただ皆の仕事を見るだけ。ある意味楽で美味しい仕事だが、暇すぎて逆に苦痛だ。

 

まあ忙しいなら仕方ない。そう思い周りを見渡すと、一つ異変に気付く。皆が忙しいわけではなく、リーダー「だけ」が忙しいのだ。自分で全ての仕事をして、他の人へ仕事を任せていなかった。

 

途中で僕は、別の先輩に仕事を教えてくれと頼んだ。

 

「んーーーー、どこまで教えて良いのかわからないんだよ。。。」

 

仕事を教えることすら許可制だった。そんなバカな。僕はあと一体何分スマホを磨けば良いのだ。

 

ちなみに今日のシフトは10人。忙しいのはリーダーだけ。残りの9人のうち4人は接客中で、残りの5人はおしゃべり中。どう考えても、5人の誰かが教えてくれれば、僕は接客ができる。

 

加藤さんは、本当に仕事ができる人らしい。営業の成績は良く、クレームにも柔軟に対応する。自分が仕事ができるから、全部一人でやってしまう。

 

でも加藤さんは一人しかいないのだ。人の上に立つ以上、人に仕事を任せる必要がある。

 

部下として優秀なのは、仕事のできる人。リーダーとして優秀なのは、仕事を任せれる人。一人で300点をとるのではなく、20人で2000点を取れる人がリーダーに向いている。

 

こんな、明らかに無駄な賃金が、この世の中には無数にあるのだろうな。だから日本の企業は、どんどんアメリカや中国に負けるのだ。

 

そんな生意気を思いながら、今日もスマホをせっせと磨く。